小田急ロマンスカーの「後展望席」に乗って、日常へなだらかに帰還する

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旅行帰りの後展望席は旅情たっぷりでした

1泊2日で小田原へ行ってきた。

思いつきで仕事終わりの夕方に出発し、翌日帰ってくるという小旅行だ。

東京-小田原間は通勤できるくらい近いので、素早く日常→旅行モードに気分を切り替える必要がある。

となると、移動手段としては真っ先に小田急ロマンスカーが頭に浮かぶ。あの「あなたは今 どの空を みているの♫」というCMのメロディとともに、ロマンスカーにはどうしてもロマンチックなものを感じてしまうのだ。刷り込まれてしまっている。だからロマンスカーを移動手段に選ぶと、一気に旅情に引き込まれるはずだ。

ロマンスをもう一度

ロマンスをもう一度

  • 畠山美由紀
  • J-Pop
  • ¥204
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そんなわけで夜19時頃新宿へ向かった。ロマンスカーに乗るために。

しかしロマンスカーは満席だった。

ショックで写真も撮っていないのだが、1時間以上待たないと空席がなかった。思いつきでロマンスカーには乗れないし、平日のロマンスカーは旅情以前にサラリーマンの足なのであった。

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新幹線に乗ればいいじゃない!

急遽路線変更し、品川から新幹線に乗ることに。同行する友人ともここで合流する。

夢の超特急。高度経済成長の象徴。新幹線は新幹線でまた別の旅情があるはずだ。

※この記事は、帰りにロマンスカーの後展望席に乗ったら素晴らしかったという話がメインですが、対比するためにまずは新幹線に乗った話をさせてください。

 

1. 新幹線

列車の旅といえば駅弁。崎陽軒に寄り、さらに高揚感でたいめいけんのカツサンドを買う。

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コンパクトで軽食にぴったり

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待ちきれずホームで食べてしまった

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ロマンスカーと異なり、この時間帯の「こだま」はほとんど人が乗っておらず快適だ。本当にガラガラだった。列の最後尾を予約したので、気兼ねなく背もたれを倒す。

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ドリンクがいつもより豪華

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崎陽軒のチャーハン弁当。定番の具材ともちもちしたチャーハンが美味しい

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ミニチュア感が可愛いからしパック

チャーハン弁当はシウマイ弁当よりも100円高く、旅のスペシャル感を地味に底上げしてくれる。

さてこの新幹線、久しぶりに乗ってみると驚くほど速い。速いうえに微動だにしない。電車なのに揺れないのが驚異的だ。家が超高速で移動しているような感じだった。

しかも小田原まではたったの27分。

写真を撮って、食べ始めるとすぐにポンポンポンポポン♫というメロディと共に、「まもなく新横浜です-新横浜を出ますと、次は小田原に止まります」というアナウンスが流れた。

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あれよあれよという間に新横浜を過ぎてしまう。

たったの27分。

小田原はもう次だ。

新幹線は優しい。余裕を持ってアナウンスをし、さらに次の駅まで伝えてくれる。疲れて寝落ちしてしまうサラリーマンのために至れり尽くせりだ。

しかし、チャーハン弁当をゆっくり楽しもうという浮かれ気分の男にそれは逆効果だった。急かされているように感じてしまう。焦りが生じてきた。

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まだ半分弱。

常温のお弁当ってなかなか口の中に詰め込めない。舌が美味しさを認識するのに一瞬の間がある。唾液がでにくいのだ。ちょっと良いドリンクをとグリーンスムージーを買ったが、素直に温かいお茶を買えばよかった。

普通27分あれば焦ることなくお弁当を食べられるのに、この新幹線の余裕を持ったアナウンスのおかげで旅行者は余裕をなくしていく。

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そうこうしているうちにまた無機質なポンポンポンポポン♫が流れる。

「ーーまもなく小田原です」

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完食。間に合った。

なんだかんだ到着5分前には食べ終えられたのだが、体験としてはもっと浮き足立っていた。朝の準備を思うと、27分は顔を洗って歯を磨いて、女性ならまだ化粧の途中だろうか。旅行者としてはすっぴんのまま小田原へと降り立った。

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ただ、こういう旅先でのちょっとしたドタバタはいい思い出になるものだ。計画通りにすべて進めばいいというものでもない。

新幹線に乗ったら速さに焦って、5分前に弁当をなんとか食べ終えた。あとで友人に興奮がちに話しても軽く流されるレベルのエピソードだが、こうして記憶に残っているのは旅行が楽しかった証拠なのだ。

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新幹線は良くも悪くもモダンだ。モダンとは合理性と利便性を重視することだ。こうして飯を口に詰め込んで、仕事に勤しみ日本は豊かになってきたのだろう。新幹線は豊かさへの超特急だったのだ。

 

そのままホテルへ直行し、1泊した。

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小田原旅行はこの一枚があれば証明できるでしょう。

さて、今度こそロマンスカーだ。昨日フラれたことで余計にロマンスは掻き立てられている。逃した獲物は大きい。

この日は平日だったので、昼過ぎの時点で当日17:45発・新宿19:05着の特急券を予約できた。しかも「後展望席」の最前列に空きが!クレジットカードの番号入力にヤキモキしながらもすぐに押さえられた。

ロマンスカーには前展望席と後展望席がある。進行方向である前展望席は人気が高くなかなか予約がとれないらしいが、後展望席は今回みたいに当日予約ができたりするらしい。

2. 小田急ロマンスカー

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17時過ぎに小田原駅へ。

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小田急線のホームは鯨の骨格標本みたいでかっこいい

今度は余裕を持ちすぎて40分くらい前に来てしまったが、ホームで待つ時間も旅行の一部。なるべくゆっくりと構内の土産物屋を物色し、お土産用にかまぼこを買った。そしてホームのベンチに座り、束の間の手持ち無沙汰を体験する。

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来た!オレンジの小田急ロマンスカー。今見えているのが最後尾で後展望席となる。しかも予約した席はこの最前列。運転席は2階へ追いやられているのだ。

このGSE70000形という車種は2018年に出来た最新のもの。そしてロマンスカーは戦前から続く歴史ある観光鉄道。伝統あるサービスの最新版って一番期待感がある。

 

中へ入ると、予約した席にちゃっかり外国人観光客の親子が座っていたりするが、車掌さんの声かけですぐどいてくれた。新幹線とは異なり、旅行気分が車内に溢れてるのだ。

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内部はこんな感じ。新幹線の窓も丸っこくて可愛いけど、こちらはアフリカの草食動物を思わせる視界の広さだ。 

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カメラの都合でこの視野だが、実際はもっと広々している。

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出発!

ロマンスカーは車内販売が充実してるらしい。せっかくなので、車内販売を利用して夕食をとるつもりだ。そういえば、こだまは車内販売がなかった。新幹線の車内販売は縮小傾向だそうだ。残念がる声もあるようだが、新幹線はモダンな存在なので仕方ない。その点ロマンスカーは観光鉄道らしく、スカーフを巻いた制服姿の車内販売員の女性が駅を発車するたびにやって来てくれる。

https://www.odakyu.jp/romancecar/features/food_menu/

販売員の女性に「メニューを見せてもらえますか?」と声をかける。よく考えると、自分で車内販売員に声をかけるのは初めてだ。

だが聞いてみるとお弁当は軒並み売り切れ。人気なので夕方には売り切れてる事が多いらしい。特にロマンスカーの形をしたGSE弁当を確実に食べたければ、時間を問わず予約した方が無難だそうだ。

残念だが、ここは急遽路線変更する。メニューからなるべく食事になりそうなものを頼む。

結局たいめいけんのカツサンド(490円)と、飲む予定のなかったビールとおつまみセット(520円)を追加した。電車で飲むのは初めてなのでこれも新鮮。

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当たり前だが、頼んだらすぐその場で手渡されるのが嬉しい。後展望席のテーブルはそんなに大きくないので、これぐらいがちょうど良いかも。

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乾杯!

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年に1、2回しかお酒を飲まないので、これだけでもなんだか退廃的な気分。

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箱根の燻製卵は手が燻製臭まみれになるほど本格的。退廃的な気分に燻製臭は似合う。指の匂いを嗅いでくさいくさいと内心喜んでしまう。

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同じものを昨日食べたのに、もうずっと昔のことのように感じられる。旅行中の時間感覚って不思議だ。

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ひと口サイズのカツサンドを早速食べ終わり、これはよくないぞと思いつつお土産の蒲鉾に手が伸びる。明太マヨかまは見た目がコロッとかわいい上に、ビールにめちゃくちゃ合うのだ。手は隣からも伸びてくる。もっと買い込んでおけばよかった。

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さて、ロマンスカーはこうしている間も関東平野を走り抜けていく。後展望席は前展望席よりも控えめの人気だが、この後ろ髪を引かれる感じは旅行帰りに合ってると思う。楽しかった記憶と向き合いながら、少しずつ日常へと後ずさりしていく。

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ロマンスカーはすこし揺れる。すこし揺れるし、カーブでは車体が微妙に傾く。新幹線よりちょっとだけ荒っぽいけど、そのぶん眼前の走行感は凄い。高層ビルのエレベーターみたいな現実感のなさが新幹線だとすると、ロマンスカーには生身のスピード感がある。ジェットコースターロマンス。

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田んぼ、山並み、鉄塔。関東郊外の典型的な風景。

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青でも赤でもなく、空が黄金色に輝く時間帯。

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山あいを抜けると、徐々に神奈川県央部の市街地へと入っていく。

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夕陽を浴び続ける時間帯だった。ちょっと眩しいのだけど、久しぶりの酔いと相まってどこか夢見心地にさせてくれる。

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ビールを飲み終えた頃に、また車内販売員の人がやってきた。せっかくなのであたたかいロイヤルミルクティー(360円)を頼んだ。結構酔っ払ってしまっている。酔った体に温かいロイヤルミルクティーが染みる。たいへん滋味深い。

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こちらは三層になったコーヒーゼリー。夏期限定メニュー。

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ちゃんと美味しくて、抜け目ない几帳面な味がした。静止画では伝わらないかもしれないが、振動でめっちゃプルプルしてて面白かった。

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さらに神奈川県のご当地キャラクター、あゆコロちゃんどら焼き(210円)も。食べ過ぎに思われるかもしれないが、メインの夕食は友人と分け合ったカツサンド半分だけなので仕方ないのだ。カロリー計算を覚えると、甘い物も辛い物もカロリーの名の下には平等であることに気づく。「パンがなければケーキを〜」と言ったマリー・アントワネットさんも実はカロリー計算に夢中だったのではないか。

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友人はホットコーヒー(360円)。お茶請けのビスケットが嬉しい。

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一息ついてる間に窓の外は見慣れたベッドタウンに変わっている。両側の家との距離が近いため、余計にスピード感がある。

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家並みのシルエットが優しい。

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ついに大きな繁華街へ。町田駅を抜け、東京都に入ったようだ。ここからは新宿まで近い。新幹線のポンポンポンポポン♪の代わりに、ロマンスカーでは「あなたは今♪」のメロディが流れる。

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すれ違うロマンスカー。次はいつ来れるだろうか。

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多摩川を越えると、もうすぐ世田谷区だ。

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自分の横顔を照らし続けた夕陽も家並みの向こうへと引っ込んでしまい、だんだんと旅の終わりが意識される。

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新宿が近づくと、さらにフランク・シナトラの「ムーンライト・セレナーデ」が車内に流れる。車内が身支度を始める頃だ。

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こうして1時間20分のロマンスを終えて、なだらかに新宿へと帰還した。終点だからか、心なしかゆっくりとホームへ停車した気がした。荷物をまとめて、席を立つ。

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降りるとホームには仕事帰りの人達が整然と並んでいた。さっきまで夕陽を浴びてお酒を飲んでいたのが嘘のようだ。そそくさと改札へ向かおう。

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帰ってきた先から再び旅へと誘う広告群。抜け目ない。

1時間20分という乗車時間は、のんびりとご飯を食べたり、写真を撮ったりするのにちょうど良かった。何より小田原から新宿まで田園風景が郊外の住宅地に変わり、徐々に都会へと戻ってくる感じがいい。旅先から生活へと緩やかなグラデーションで戻ってくるのだ。記憶をゆっくり噛みしめる時間があるほど、旅はいい思い出として体に溶け込んでいくのだと思う。

今度はちゃんと予約して行きのロマンスカーを試してみたい。お弁当を食べて、コーヒーを飲んで、旅先での計画を練る。ちょっとした時間が、意外と大きく旅の質に関わってくるのかもしれない。

帰りは逆に新幹線を使ってもいい。また違った雰囲気を味わえるだろう。やはり27分という時間はスリリングだ。早く着く分、新宿でちょっと良い夕食をとってから自宅へ帰るのも良さそうだ。

次、行きたくなった時が楽しみだ。