※これは過去記事を読みやすくまとめた記事です。
平成30年の夏、ずんだ餅を思う存分食べてきた。
きっかけは学生時代に一番仲の良かった友人が仙台に転勤したこと。友人宅に泊まりながら、20代最後の夏休みを仙台で過ごした。
学生時代の友人に会うと、懐かしさと共にその年頃のノリみたいなものが蘇ってくる。
初日にずんだ餅の美味しさを知ったことが引き金となり、「ずんだに関する食べ物を見つけたら必ず買って食べる」という理由なきルールが出来た。結果、5日間で計17のずんだを食べることとなった。
そんな中で、特に心に残った7つの「もう一度食べてみたいずんだ」を紹介したい。
- 1. 初めての本格的ずんだ体験「つぼや商店のづんだ餅」
- 2. 伊達の街に輝くずんだカラー「エンド-餅店のづんだ餅」
- 3. ロードサイドの桃源郷「関山大滝のずんだ団子」
- 4. 松島の遊覧船に乗って味わう「ずんサン」
- 5. ずんだは餅だけじゃない「ライスブレッドファクトリーモナモナのずんだコッペ」
- 6. 駄菓子としてのずんだ餅「藤やのずんだ餅」
- 7. 創業170年、ずんだの最古参「村上屋餅店の湯あがり娘づんだ餅」
1. 初めての本格的ずんだ体験「つぼや商店のづんだ餅」
正直言うと、仙台に来るまではずんだ餅の事をすこし舐めていたと思う。
枝豆=塩味という自分の固定観念や、その妙に弾んだネーミング、知名度がありながら全国区になり切れないところなど、どこかB級グルメ的な印象があった。小豆あんという王道には勝てないが、だからこそ地元で愛される二番手タイプの和菓子。
そんな印象だった。
だが、それは間違いだったことを初日早々知ることになる。
大正10年創業のつぼや商店。友人宅に近く、レトロな雰囲気に惹かれて寄ってみた。店内のシックな木製ショーケースにはたくさんの和菓子が並んでいて、もちろんずんだ餅もある。
3個で500円ぐらいだったと思う。ずんだ餡で餅が見えず、手に持つとずっしり重い。朝ごはん代わりに車の中で食べてみる。
口に入れるとまず、ずんだ餡の主役っぷりに驚く。つぶつぶ感がすごい。みずみずしくプチプチした食感で、はじけた先に甘みと風味がある。それを受け止める餅とのバランスもいい。名は体を表すと言うが、「ずんだ」は確かに弾んでいた。
これ、あんこよりずっと好みだ!全然二番手じゃない。
ずんだ餅、もっと食べてみたくなってきた。
2. 伊達の街に輝くずんだカラー「エンド-餅店のづんだ餅」
ということで次に向かったのは、JR仙山線・東照宮駅の近くにあるエンドー餅店。
ずんだカラーの外観&全国菓子大博覧会名誉大賞受賞。否が応でも期待は高まる。
(ここで疑問に思った方もいるかもしれないので補足だが、「づんだ」と「ずんだ」どちらも間違いではないようだ。全国区なのは「ず」なのでこの記事では「ずんだ」と呼ぶが、老舗は「づ」が多かった。)
ここで旅のハイライトとなるずんだ餅に出会う。
一口食べた瞬間、あっ!と心の声が出た。噛むたびにふわっと香りが鼻へと抜けていく。みずみずしい新緑そのものを食べ物にしたら、こんな感じになるんじゃないか。餅がずんだを運び、香りと甘みを口の中でふくらませる。これが世に言う「香り高い」ということなんだと思った。
大げさに聞こえるかもしれないが、その美味しさにはちょっとした驚きがあったのだ。
この出来立てのみずみずしさこそ、ずんだ餅の美味しさの要なのか。東京に住んでいる自分が知らないわけだ。ずんだのことが少しだけ分かってきた。
みずみずしさといえば次の場所で食べたずんだは外せない。
3. ロードサイドの桃源郷「関山大滝のずんだ団子」
翌日は松尾芭蕉の句で有名な山寺(立石寺)へ行くため、山形へ車で向かっていた。
運転はすべて友達に任せ、ペーパードライバーの自分は隣で「ずんだずんだ〜♪」と歌ったり写真を撮ったりしていた。5日間の運転と引き換えに、先述のずんだチャレンジを任せられているのは自分なのだ。
途中、関山大滝という看板を見つけたのでトイレがてら寄ってみたが、ここで予期せぬ絶景に出会う。
この場所は言葉より写真を見てもらった方が早いと思う。
そんな絶景を見下ろす位置にある、昔ながらのお食事&おみやげ屋「泉や」。
店員の女性にトイレの場所を聞くと「トイレだけはダメだよ!」と言われ、中で軽食をとることになった。
ここでも大量のずんだに出会った。しかしそれよりも驚きなのは、あんこが戦力外なことだ。エキゾチックな光景だ。思いがけず旅情を感じてしまった。
眼下には雄大な滝が広がっているのだ。これで美味しくないはずがない。
滝の音を聞きながらのずんだ団子は、より一層みずみずしく感じた。
4. 松島の遊覧船に乗って味わう「ずんサン」
4日目は日本三景、松島へ。
ずんだ以外の美味しいものも食べたい…と寄ったかまぼこ直売所で「ずんだキャラメル」を見つけてしまうハプニングもありつつ、昼頃にはついた。
遊覧船を待っている間に寄った売店で見つけたずんサン。ずんだもちサンデー。暑い中これは嬉しい。さらにソフトクリームは味が選べる。
店内に入り、「ずんサンずんだソフトでお願いします!」と注文する。店員の女性はちょっと笑いながら「はーいずんサンずんだソフト!」と繰り返した。
そんなずんサンを片手に遊覧船へ乗り込む。夏の松島とずんサン。これはもうシチュエーション勝ちだ。
日本三景・松島。どうせ交通手段が未発達だった大昔のベスト3だろうとタカをくくっていた面もあったのだが、予想以上にかっ飛ばす遊覧船で見る松島はダイナミックで素晴らしかった。
5. ずんだは餅だけじゃない「ライスブレッドファクトリーモナモナのずんだコッペ」
ライスブレッドファクトリーモナモナはその名の通り、米粉パンの専門店。
店内にはクロワッサンまであってびっくりしたが、ここの看板メニューはコッペパンだ。様々なトッピングのコッペパンが用意されている。…ということはもちろんある。
一口食べてみると、米粉のもっちり感とずんだの優しい甘み、ふわっと溶けていくホイップが同時に舌を刺激する。初めて食べる組み合わせなのに、これだ!と頷くおいしさ。勢い余って3口くらいで食べ切ってしまった。
ずんだコッペを食べて、あんパンを思った。明治時代から存在するあんパン。和菓子という括りを飛び越え、日本のパンの代表格だ。でも、ずんだ餡だってあんこに負けず劣らずいろんな楽しみ方ができるんじゃないか。ずんだバタートーストとかどうだろうか。甘じょっぱくて絶対美味しいと思う。
6. 駄菓子としてのずんだ餅「藤やのずんだ餅」
7つ目にはこの旅で最高級のずんだ餅が控えているのだが、それと対照的なずんだ餅を先に紹介したい。
都心の大通りにぽつんと佇むこの外観。「藤や」は団子屋兼街の食堂といったお店。
店内も寅さんの映画を思わせる懐かしい雰囲気。昼時だったので食事目的のお客が多い。周りを見ると冷やし中華がほとんどだ。自分も冷やし中華とずんだ餅を頼む。
甘い物の写真ばっかりだったので余計美味しそうに見えるかもしれない。見た目の通り、なんとも良い味の冷やし中華だった。
食べ終えたらすぐに持ってきてくれたずんだ餅。100円か150円だったと思う。
誤解を恐れずに言えば、これまでのずんだ餅に比べて駄菓子っぽい。でもそれがいい。水飴のしっかりした甘みが懐かしい。食後のおやつにぴったりのずんだ餅。ずんだ餅は本当に仙台へ根付いた和菓子なんだなと思った。
7. 創業170年、ずんだの最古参「村上屋餅店の湯あがり娘づんだ餅」
最終日。
仙台のずんだ餅といえば、ここは絶対に外せないという村上屋餅店へ。
この旅で最高級の「湯あがり娘づんだ餅」(3個700円)。今が旬と書いてある。これは食べなきゃ後悔するやつだ。
一体どんなずんだ餅なんだろうか。ドキドキしながら包装紙を外してみたが、やはり湯あがり姫は一味違った。
このずんだ餡には、これまでの弾ける粒々感とはうって変わって「くちどけ」という言葉がふさわしいと思った。一方丸餅はつるんと柔らかく「のどごし」という言葉が思い浮かぶ。
くちどけとのどごしのずんだ餅。木漏れ日にたたずむ、浴衣姿の湯あがり娘。気になる方は是非食べてみて欲しい。
ちなみに湯あがり娘は枝豆の品種名で、他にも枝豆には『夕涼み』『緑碧』『秘伝』『味風香』『おつな姫』などポエティックな品種名があるそうだ。
枝豆、奥が深い。自分はまだその入り口に立ったばかりだったのか。
旅の最後に仙台市街を一望できる青葉城へ行った。短い間だったが、この街で5日間を過ごした。遠く見えなくても、この風景のどこかに美味しいずんだ餅が隠されている。星の王子様の台詞を思い出した。
こうして終えた20代最後の仙台旅行。
その後、友達は結婚して東京に転勤となり、仙台との縁もなくなった。
いつでも行ける距離ではある。
だが、年齢や立場が変われば旅先の風景も違って見えるものだ。そう考えると、いつでも行ける場所というのは存在しないのかもしれない。
いつだって、今だからこそ見える風景、気づくものを大切にしたいと思う。
あの夏、それはずんだだった。