2011年発売、finepix X100に続く富士フイルムXシリーズの第2号機。2ヶ月前に1万円ちょっとで手に入れたこのカメラを好きになってしまった。気づけば毎日持ち歩いている。
昔の機種なのでいろいろと欠点はあるけど、どうにかして良い写真を撮りたくなる、いや撮ってあげたくなる不思議なカメラ。謎の上から目線を発動してしまったが、そんな好きの話をしたい。
X10を使ってて楽しい理由は主に3つある。
一つは起動が早いということ。次に、今は廃れた技術である画素混合ダイナミックレンジ拡張。そして1cmマクロだ。
1. 電源onと手動ズームの一体化が気持ちいい
このカメラ、普通のコンデジと違って電源ボタンがない。レンズをoffから28mmまでひねると電源onになる。このスチャとひねる感触が心地よい。モデルガンにマガジンを込めてジャキッてスライドし弾を装填する、ああいうフェチズムに近いものがある。もし中古で見つけたら、一度試してみて欲しい。人間の気持ちよさのツボを押さえてると思う。
そして、X10はコンデジに珍しく手動ズームだ。28-112mmのレンジを素早く滑らかに回せる。ここまで起動からほぼ1アクション。
普通のコンデジの場合、電源をカチッと入れて沈胴ズームがウィーンと出てきて、さらにズームする場合はウィーンとレンズを伸ばすという3アクション。
実際のレスポンスは年代相応なのだが、体感的には最も初動が速いコンデジなのだ。オートフォーカスも初期のXFレンズに比べると明らかに速い。扱うデータが軽いからか、全般的にX-Pro1やX-E1よりもキビキビしている印象だ。
速写性というとAFの速さが取り沙汰されるけど、実際にはカメラを取り出す前、ちょっと気になるけどわざわざカメラを出して写真に撮ろうかな…どうしようかな…という判断の部分が最初のハードルになるため、起動が楽しいことが一番だと思う。
2. 画素混合によるダイナミックレンジ拡張
この写真、安いコンデジにあるまじき写りなのだ。午後5時、西日を浴びてレンガ塀が眩しく光っている。液晶モニター上では真っ白。しかし写してみると白飛びせず、写真にはレンガの凹凸が残っている。
X10はEXR-CMOSという特殊な配列のセンサーを使っていて、隣り合う画素を合成しiso100でダイナミックレンジ400%を可能にする機能がある。
これが相当使える。日中の屋外は思った以上に明暗差が激しい。人間の目ほどカメラのダイナミックレンジは広くないため、明るい部分を写すと暗い部分は黒潰れするし、暗い部分を写すと明るい部分は白飛びする。
フォトヨドバシのレビューのようなダイナミックな写真が撮りたいなら別だが、日常場面では伝えたい情報があるから写真を撮るのだ。コントラストが強いと情報を得にくく、目は疲れてしまう。そこでダイナミックレンジ拡張。
デメリットは有効画素数1200万画素なのが半分の600万画素で出力されること。それでも4000×3000px→2816×2112pxなので、ブログ用には十分。
画素混合は00年代後半に話題になったが、その後センサーの地力が上がるにつれて廃れた技術。ちなみに、1億画素スマホで話題となったXiaomiのMi Note 10も4画素混合による画質向上を謳っている。iPhone11の画像合成によるナイトモードもこのX10に全く同じ機能があるし、最新スマホがオールドデジカメを追いかけているようで面白い。
極端なコントラストがつかない分、あとで加工もしやすい。DR400%はハイライトが少し退色したような、懐かしい雰囲気の写真に似合う。さらに一般的なダイナミックレンジ補正と合わせて、iso400DR1600%という極端な機能もある。夜の自販機の写真を撮る時ぐらいしか使ったことはないけど。
また、こんな場面にもDR拡張は便利だ。
日没間際、マジックアワーの空の色を濃く出したかった。この場面もDR100%だと露出を下げて丘の部分を黒いシルエットにするか、露出を下げず空が白っぽく飛ぶかの二択だが、DR400%なら両立することができる。
こちらは夕方の日陰で撮った写真。白い花はカメラの性能がでやすい被写体。液晶モニター上では白飛びしながら撮っているが写真では花びらの柔らかい白が出た。絵作りも昔のデジカメは軟調寄りで、ある種の味になっていると思う。
3. 1cmマクロの世界
スーパーマクロ機能により、広角28mmではレンズの先1cmまで寄れる。これが楽しい。小さいセンサーの恩恵だ。その後は換算35mmで10cm、50mmだと15〜20cmくらい。
広角端で寄れるコンデジは多いけど、今主流の24mmだとパースがつき過ぎて扱いづらい。その点28mmの方が扱いやすい。
小さな花はちょっとした風で揺れるため、ピント合わせは正直運だ。何枚も撮って良いのを探すことになるけど、600万画素なので容量的にも気負わず連写できる。
ソメイヨシノの花びらもこれだけ大きく写る。撮った後レンズに黄色い花粉がついていて、貴重な生命の種をごめん…と思った。
このカメラを撮ってから花の写真を撮ることが増えた。富士フイルムの標準ズームXF18-55mmは画質はいいけど寄れないため、花撮りの楽しさが全然異なる。
ボケは微妙な時がある
さすがに古いカメラなので、長所ばかりではない。
レンズが明るいのである程度はボケるのだが、玉ボケがカエルの卵みたいになることがある。
強い点光源がボケるとこうなりやすい。乱反射する濡れた地面なんかで顕著に出ると思う。シャープネスを強めると余計際立つかな。
ただし、目立たないときの方が多い。
下二つのボケはゼリーが崩れるような感じで好き。背景との距離を取るか、思い切り寄るかのどちらかかな。どんな時に気に入ったボケになるかはまだまだ手探り。
高感度耐性について
最新の1型センサーに慣れているとiso400が限度かなと思う。f2-2.8とレンズが明るいので、街中なら夜でもiso400で十分だ。手ぶれ補正の効きはしっかり持つと広角で1/4、望遠で1/15ぐらい。よく効いている。
ちなみにDR拡張モードでも高感度低ノイズモードでも同じ600万画素でノイズ感はそんなに変わらない。1200万画素で撮るよりも1段分くらいはノイズが少なく撮れる。
その他作例
たいした写真はないけど、近所の散歩を楽しいものにしてくれた写真を載せたい。
最後に個人的なおすすめ設定
・絞り優先、iso100、Mサイズ、DRオート(これで自動的に画素混合DR拡張になる)
・DRオートだとシャッタースピードは1/1000まで。回折補正機能がついていないため、F2.8~F3.6くらいが最高画質かなと思う。日中はNDフィルターが必要かも。
・低画素機なのでデジタル臭くならないようにシャープネスとノイズリダクションは-2。
・今の富士フイルムっぽい写りならアステアが〇。
・広角の歪みを後処理するならlightroomで+5程度するとよい。
・標準域では周辺光量落ちがそこそこ目立つので、むしろ周辺減光を加えることも多い。
このカメラを使ってて楽しいのは、性能を限界まで使えてる気がするからかもしれない。神戸牛のステーキを適当に焼くより、スーパーの半額OGビーフを工夫して美味しく焼いた方が愛着湧くような感じ。
新しいカメラを買ったらそれはそれで画質最高!便利!と驚けそうだが、今のところはこのカメラと富士の古いミラーレスで満足している。